はじめに
なぜ、融資を受けることにしたか
Twitterの記事や、税理士の先輩方の意見を参考にすると、開業から半年程度は、ほぼ無収入の状況になるケースが多いそうです。そのため、その間の生活資金を用意する必要があります。生活資金としては、次のどちらかになると思われます。
- 貯金を取り崩す
- お金を借りる。
独立前に、時間をかけて準備されて、ある程度の貯金ができれば、融資を受ける必要はないと思われます。しかし、以下の理由から融資を受けることにしました。
- 資金繰りが苦しくなる前に融資を受ける。
- 自分で貯金した自己資金がなかった。
- クライアントの方の融資ご支援をする勉強になる。
そのため、自身の勉強の意味でも、今回、日本政策金融公庫から開業資金の融資を受けることにしました。
日本政策金融公庫で融資を受けることに
日本政策金融公庫とは?
日本公庫利用の手引によると、「事業を営むみなさまのための政策金融機関です。」とあります。中小企業・小規模事業者の支援を目的として設立された政府系金融機関です。
私は、新規開業資金の貸し付けで、創業予定又は創業間もない方(税務申告2期未満)が対象の新創業融資制度で融資をうけることにしました。新創業融資制度は、他の融資制度とあわせて利用するもので、無担保、無保証人の制度です。
面談までの準備
面談までには、事前申し込みが必要です。郵送でも申し込みできますが、私はインターネットで申し込みしました。
メールアドレスを登録し、申し込みフォームに必要な情報を入力します。創業計画書などアップロードすれば申し込みが完了しますので、とても便利でした。
申し込み方法は便利なのですが、創業計画書の作成には時間をかけたほうが良いと思います。なぜなら、面談で聞かれたことにも直接つながるためです。
創業計画書が大事
創業計画書は、A3の用紙で、創業の動機、経営者の略歴、必要な資金と調達方法、事業の見通しなど、融資を判断する上での書類です。
特に重要だと思われるのが、「7 必要な資金と調達方法」「8 事業の見通し」です。
必要な資金の調達方法
「7 必要な資金と調達方法」の欄は、左側に、資金が何を買うのに必要か(設備投資or運転資金)その具体的な内容を記載します。また、右側に、どうやって資金を調達するか(自己資金or借りる)、借りる場合は誰から(親、知人等、他の金融機関)借りるかを記載します。
なお、配偶者からの資金は自己資金になります。
事業の見通し
「8 事業の見通し」創業当初と1年後の売上高と経費を経費を月平均で記載します。
売上高の根拠については、幸い、顧問先引継ぎのお話を頂いていたので、契約予定の顧問料等の金額を書きました。1年後の売上高については、開業後1年間の獲得目標件数を、法人5件、個人10件とし、顧問料の平均を法人1件50万円、個人1件5万円と設定しました。
また、経費については、前職の経費を参考に設定しました。
必要書類
面談時に持参するもの
預金通帳
現物が必要になります。具体的には次のものです。なお、記帳は事前に済ませておきましょう。
- 自己資金の蓄積状況、給与の入金状況のわかるもの
- 公共料金や借入金等の支払に使用されているもの
- クレジットカード決済が確認できる通帳(6ヶ月分が必要です。)
クレジットカードの明細
直近3ヶ月分が必要です。
創業のために使った資金の領収書
領収証のほか、Amazonで購入した場合、購入明細書をプリントアウトしたものを用意しました。
住宅ローン等借入金の明細
返済予定表。返済が確認できる通帳も必要です。
固定資産税の領収書
令和3年分が必要でした。口座振替している場合は、口座振替時の記帳がされている通帳が必要です。
運転免許証
パスポート、在留カードなども該当します。
2期分の確定申告書の写し
創業時融資の場合は、その事業についてわからないので、不要でした。
面談で聞かれたこと
面談にかかった時間は、約1時間でした。必要資料が揃っているかの確認と、創業計画書の内容確認がほとんどでした。
売上の見通し
創業計画書の数字の根拠について聞かれました。参考資料として引継ぎ予定の法人の関係資料など持参しました。顧問を結んでいる場合は、契約書等用意したほうがいいと思います。根拠資料との数字の整合性は大事だと感じました。
あと、1年後の見通しについて、どのような方法で顧客を獲得するのか、顧問料単価の根拠(なぜその金額になったのか)について聞かれました。
経費の見通し
経費の見通しについても同様に、開業後かかる経費について何があるか聞かれました。こちらは、売上の見通しに比べて質問時間が短かったように感じました。
自己資金について
面談を受けて、個人的には、自己資金をどうねん出したか、その方法が大事だと感じました。
そこから新規事業に対して計画性をもって臨んでいるかどうかを判断されるものだと思われます。
自己資金をどうやってねん出したかは大事
一番強いのが、自分の貯金です。1年以上前から積立して、毎月、通帳にその過程を記帳する。長い年数をかけて積み上げることで、その人に計画性があるかどうか、事業に対してどれだけ本気かを表せると思います。
自分の貯金は、大学院に使ってしまいました。また、2020年の9月と12月の足のけがや、論文作成で手一杯で、あらためて貯金する余裕もありませんでした。そのため、妻から資金を提供してもらいました。面談では、事情を正直に話し、資金の出所を証明するのに、妻の通帳も(妻に事前に了解得たうえで)持参しました。
また、現金以外の財産として、養老保険の契約書を持っていきました。解約すれば現金にできますので預金ではありませんが財産があるというアピールをしました。
なお、自己資金は、融資額の最低1割(できれば2割以上)は準備したいところです。
また、今回融資を受けるにあたって以下の書籍を参考にしました。特に自己資金の準備の考え方について、とても参考になりました。
「金融機関は、自己資金をチェックする際に、通帳原本を必ず確認します。そこで見るのは貯まっている額だけではありません。お金の貯め方のプロセスをチェックしているのです。ここで毎月、コツコツ定額が積み上がっている状態であれば、毎月の返済もしっかり実践してくれることが期待できます。…(略)…自己資金を見る際には、創業時に『いくらお金を持っているか』だけでなく、事業の将来性、本気度をも判断されるのです。」
田原広一『独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方35』61頁(幻冬舎、2018年)
「自分で貯めた資金に次いで、評価が高いのが一緒に住んでいる家族、配偶者の預金です。…(略)…生計を一にしている配偶者が、万が一の際に自身の預金を提供することが可能ということは、起業に協力的であると判断されます。」
田原広一『独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方35』61~62頁(幻冬舎、2018年)
おわり
数字の根拠や、自己資金について説明できるように準備していたので、面談は、終始和やかに進みました。10月14日に融資の面談に行き、19日に融資が決定しました。当初の申込み額300万円から100万円減額し200万円になりました。
そもそも、自宅で開業する場合、他業種に比べ、多くの資金は必要ないので、融資額も限界があるのではないかと感じました。
一般的に税理士の開業資金は低く抑えられる。
自宅で開業する税理士の場合、創業時必要なものは、次のものが考えられます。
- 税理士登録費用(約30万円)
- パソコン、会計・税務ソフト(約50万円)
- 書籍、ホームページ作成(約50万円)
合計しても約130万円、1年間の経費を月5万と考えても約200万円と、当初申し込みをした融資の金額には及びません。そのため、資金の使い道やその後の返済とのバランスを考えると、自宅開業する税理士の創業時の融資額としては限界なのかなと感じました。(オフィスを借りる場合は、融資額は大きくなると思います)
なお、事業主分の給料は運転資金に含めることはできません。
自分が融資を受ける立場になって勉強になった。
今回、初めて事業資金の融資を申し込んだのですが、どういう手続きをして、どういう点を気を付けなければならないのか、とても勉強になりました。今後クライアントの方のご融資を支援していく上でも意義のあるいい機会だったと思います。