相続時精算課税制度について

相続税法

相続時精算課税制度とは

概要

今回は、相続時精算課税制度について触れたいと思います。

贈与税の制度には、暦年課税制度と相続時精算課税制度があります。暦年課税制度との違いを確認しながら、その活用方法について検討したいと思います。

相続時精算課税制度は、次世代への資産移転を促進することを目的として、平成15年の税制改正で創設されました。相続時精算課税制度は、贈与財産の価額の合計額から2,500万円までの金額(特別控除額)を控除した金額について、20%の税率で税額を計算します。

また、相続時精算課税制度を適用した財産については、贈与者の相続の際、贈与者(被相続人)の相続税の課税価格に加算して相続税を計算することになります。(相法21の15、相法21の16)

なお、暦年課税制度と異なり、贈与税の合計額>相続税額の場合には、差額が還付されます(相法33の2)。

適用対象者

財産を贈与する人、贈与を受ける人、それぞれ要件があります。

財産を贈与する人(贈与者):贈与した年の1月1日で60歳以上であること

財産の贈与を受ける人(推定相続人)贈与者の直系卑属で18歳以上(相法21の9①)であること。また、孫も適用があります(措法70の2の6)。

申告要件

贈与した年の翌年2月1日から3月15日までに、贈与税の申告書を提出しなければなりません(相法28)。その際、届出書に関係する贈与者ごとに相続時精算課税選択届出書を提出しなければなりません。(相法21の9②)

暦年課税とどう違う?

では、相続時精算課税制度と暦年課税制度とがどう違うのか、確認したいと思います。

下の表が、贈与税制度の概要になります。相続時精算課税制度は、将来の相続財産を贈与で取得しているイメージになります。

贈与税制度 相続時精算課税制度 暦年課税制度
目的相続税と贈与税との一体化課税相続税の補完税
納税義務者(贈与を受ける人)贈与により相続時精算課税適用財産を取得した個人(相法1の3③一)贈与により財産を取得した個人で一定のもの(相法1の4)
課税の対象特定贈与者から贈与により取得した財産の金額の合計額(相法21の10)その者がその年において贈与により取得した財産の価額の合計額(相法21の2)
基礎控除(特別控除)累計2,500万円(相法21の12)年110万円(相法21の5、措置法70の2の4)
税率20%(相法21の13)10%から55%の累進税率
還付制度あり(相法33の2)なし
相続税の課税価格への影響相続時精算課税を適用した贈与財産については、贈与者の相続税の課税価格に加算(もしくは遺贈で取得したものとみなして)相続税を計算する(相法21の15、相法21の16)贈与者から相続又は遺贈により財産を取得した場合に、その相続開始前3年以内に、贈与により財産を取得した場合には、その贈与財産の金額を相続税の課税価格に加算して相続税を計算する(相法19)

(出所:三木義一「遺産取得税方式と法定相続分方式の差異」税研23巻6号39頁(2008年)を参考に筆者作成)

デメリットは?

適用した年分以後、届出書に関係する贈与者からの贈与は、すべて相続時精算課税で計算しなければなりません(相法21の9③)。また、一旦届出書を提出したら、撤回できません(相法21の9⑥)。

また、すでに贈与を受けた財産が消費されているか、又は現金化できない、もしくは現金化が困難な財産に変わっていれば、納付は事実上不可能になります。この場合、相続税の連帯納付義務の規定により財産のある他の相続人が追及をうけることになります(相法34①)

なお、不動産を贈与した場合、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(措法69の4)は適用できません。

一旦選択したら、後から取りやめができないので、選択するか否かは充分検討する必要があります。

橋本守次「相続時精算課税制度の問題点」月刊税務QA23号21頁(2004年)

どんなケースで使える?

どんなケースで適用できるかと考えると、次が挙げられると思います。

  • 相続財産が相続税の基礎控除額の範囲でおさまる(もしくは、適用される相続税の税率が20%以下となる)場合
  • 事業承継を前提に贈与する場合(自社株、事業用資産)

基礎控除の範囲でおさまる場合

相続税の基礎控除は、次の算式で計算されます。相続財産が相続税の基礎控除額の範囲でおさまる場合には、相続時精算課税に係る贈与税について、還付されます。

 3,000万円+600万円×法定相続人の数2

2法定相続人の数に含める養子の数には制限があります。

事業承継を前提に贈与する場合

事業承継を前提に自社株や事業用資産を贈与する場合、贈与税の納税猶予等の制度との併用が認められます。暦年課税制度よりも基礎控除額(特別控除額)が大きいので、暦年課税制度に比べて納税猶予の金額を抑えることができ、万一打ち切り事由に該当した場合のリスクを軽減することができます。(納税猶予制度については、申告期限までに、担保提供することが要件のひとつとなっています。)

  • 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例(措法70の7の5)
  • 個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除(措法70の6の8)

さいごに

繰り返しになりますが、相続時精算課税制度は一旦選択したら、やり直しできませんので、専門家と十分に検討を重ねたうえで選択するか否かご判断いただければと存じます。

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