雑所得の範囲を明確にしたい国税庁
2022年の8月1日に、国税庁は、所得税基本通達の一部改正(案)に対する意見募集を開始しました。
その背景として、シェアリングエコノミーなどの副業所得について、事業所得にあたるか、もしくは、雑所得にあたるか、所得の区分をするのが難しいといった課題があったためです。
所得税法は、それぞれの所得の担税力の違いから、所得を10種類に分類しています。
所得税法は所得をその源泉ないし性質に応じて、利子所得ないし雑所得の10種類に分類している。これは、各種所得の金額の計算においてそれぞれの担税力の相違を加味しようという配慮に基づくもの
金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂、2021年)202頁
それぞれの所得の担税力が違うから、事業所得か雑所得か区分する必要はある。だから雑所得の範囲を明確にするための通達改正だそうです。具体的には、その所得が副業で(主たる所得でなく)、その売上が300万円を超えない場合には、反証がない限り雑所得にします。というのが、今回の改正の概要です。
業務に係る雑所得の範囲に、営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得が含まれることを明確化します。また、事業所得と業務に係る雑所得の判定について、その所得を得るための活動が社会通念上事業と称する程度に行っているかどうかで判定すること、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証がない限り業務に係る雑所得として取り扱うこととします。
国税庁「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募手続の実施について 意見公募要領より
ここで気になるのは、「反証がない限り業務に係る雑所得」とありますが、逆に、反証がある場合として、例えば、毎年事業所得として申告していたけれど、新型コロナウイルス感染症など特殊な事情で、令和4年は、たまたま300万円以下になった場合等に限定されるそうです。
反証がある場合とは、例えば、継続して事業所得で申告していたものの、新型コロナの影響などといった特殊な事情により、収入金額が300万円以下となった場合等が該当。
週刊税務通信NO.3715(2022年)6頁
なお、適用時期は令和4年分以後の所得税について適用予定です。
雑所得になるとどうなるの?
副業が、業務に係る雑所得にあたる場合には、青色申告の特別控除(措法25の2)が使えなくなります。また、給与所得との損益通算(所法69①)ができなくなります。
そもそも通達とは何か?
今回の通達の改正について、まず、通達とは何ぞや?というところから確認したいと思います。
通達は、国税庁から税務署への命令であり、組織内では、拘束力を持つものですが、国民に対して拘束力を持つ法規ではなく、裁判所もそれに拘束されません。
通達は、上級行政庁の下級行政庁への命令であり、行政組織の内部では、拘束力を持つが、国民に対して拘束力を持つ法規ではなく、裁判所もそれに拘束されない。したがって、通達は租税法の法源ではない。
金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂、2021年)116頁
だからといって、日々の租税行政は、通達をよりどころとして、行われているので、納税者側で争わないかぎりは、法律の解釈運用に関する問題は通達に即して解決されることになります。そのため、実質的に通達は、法律と同様の機能を果たしていると言えます。
しかし、実際には、日々の租税行政は通達に依拠して行われており、納税者の側で争わない限り、租税法の解釈・運用に関する大多数の問題は、通達に即して解決されることになるから、現実には、通達は法源と同様の機能を果たしている、といっても過言ではない。
金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂、2021年)116頁
よって、課税庁(国税庁や税務署)は、この通達に沿って、指導をすることになります。
そもそも事業所得とは何か?
まず、ある所得が事業所得に該当するか、又は雑所得に該当するか判断するには、まずその所得が事業所得に該当するか検討することが必要です。
事業所得とは、農業、漁業、製造業、(中略)サービス業その他の事業で、対価を得て継続的に行う事業とされています。(所法27①、所令63)
すなわち、事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいいます(最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁)。
この観点からは、当然に取引の種類、その取引における自分の役割、人的・物的設備があるかどうか、資金調達方法など総合的に検討する必要があります。
「対価を得て継続的に行う事業」に該当するか否かは、結局、一般社会通念に照らしてきめるほかないと思われるが、その判断に際しては、営利性・有償性の有無、継続性・反覆性の有無のほかに事業としての社会的客観性の有無が問われなければならず、この観点からは、当然にその取引の種類、取引における自己の役割、取引のための人的・物的設備の有無、資金の調達方法、取引に費した精神的、肉体的労力の程度、その者の職業・社会的地位などの諸点が、検討されなければならない。
大阪地判昭和49年2月6日行集〔参〕26巻3号445頁
私見ですが
事業に該当するかどうかの判断については、令和4年分の副業の売上が、たとえ300万円を超えたとしても、その所得を得るための活動が、社会通念上、事業に該当するかどうかを個別に判断することが大切だと思います。また、その判断は、取引の種類、自己の役割、設備の有無などを総合的に検討して判断する必要があると思われます。
自分なら、青色申告決算書の3頁の「本年中における特殊事情」に、取引の種類、自己の役割など、箇条書きにして、自己がどういう立場で、どういう設備を有してということなど、具体的に検討して、事業所得に該当することを判断しました。ということを書くかなとか。(もちろん、雑所得にあたると判断される活動について、事業所得に該当すると判断することはできません。)
パブリックコメントなので、断定的なことは言えませんが、令和4年分の確定申告において、副業年収が300万円を超えない活動について、事業所得として申告することは、厳しくなるのではないかと考えております。